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神戸地方裁判所 平成10年(ワ)1087号 判決

A事件原告

ツー・エス・エー物流企画株式会社

ほか一名

被告

アクティブ有限会社

B事件原告

ツー・エス・エー物流企画株式会社

ほか一名

被告

住友海上火災保険株式会社

主文

一  被告アクティブ有限会社は、

1  原告ツー・エス・エー物流企画株式会社に対し、金一七四万八九九七円及びこれに対する平成九年一二月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告三井海上火災保険株式会社に対し、金一二〇万円及びこれに対する平成一〇年六月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告住友海上火災保険株式会社は、

1  前項1の判決が確定したときは、原告会社に対し、金一七四万八九九七円及びこれに対する右判決確定の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  前項2の判決が確定したときは、原告三井海上火災保険株式会社に対し、金一二〇万円及びこれに対する右判決確定の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告両名のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、これを五分し、その三を原告らの、その余を被告らの、各負担とする。

五  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告らの求めた裁判

一(A事件)

被告アクティブ有限会社(以下「被告会社」という。)は、

1  原告ツー・エス・エー物流企画株式会社(以下「原告会社」という。)に対し、金五九八万九五二二円及びこれに対する平成九年一二月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を、

2  原告三井海上火災保険株式会社(「原告三井海上」という。)に対し、金三〇〇万円及びこれに対する平成一〇年六月一六日(訴状送達の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を、

それぞれ支払え。

二(B事件)

被告住友海上火災保険株式会社(以下「被告住友海上」という。)は、

1  原告会社と被告会社との間のA事件の判決が確定したときは、原告会社に対し、金四九〇万円及びこれに対する右判決確定の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を、

2  原告三井海上と被告会社との間のA事件の判決が確定したときは、原告三井海上に対し、金三〇〇万円及びこれに対する右判決確定の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を、

それぞれ支払え。

第二事案の概要

一  原告らは、原告会社が後記の交通事故(以下「本件事故」という。)により、損害(物損)を被ったところ、被告会社にその損害賠償責任があるとして、原告会社は被告会社にその損害の賠償を求め、原告三井海上は、原告会社の損害の一部について、原告会社との保険契約により保険金を支払ったとして、保険代位により、被告会社にその賠償を求める。

また、原告らは、被告住友海上に対しては、被告会社に対して有する損害賠償債権に基づき、被告会社の有する保険金請求権につき、債権者代位により支払を求める。

二  前提となる事実

1  本件事故の発生(争いがない。)

(一) 発生日時 平成九年一二月二四日午前五時八分ころ

(二) 発生場所

岡山県備前市閑谷山陽自動車道上り線一〇一・六キロポスト先

(三) 当事車両

1 原告会社保有の大型貨物自動車(神戸八八か七五七二。以下「原告車両」という。)。訴外松下雅弘が運転していた。

2  被告会社保有の大型貨物自動車(尾張小牧一一き一四一五。以下「被告車両」という。)。被告会社の従業員たる訴外濱口佐織が被告会社の業務として運転していた。

(四) 争いのない範囲の事故の態様

原告車両は、本件事故の五分ほど前に、前方を走行中の訴外田丸勝盛運転の大型貨物自動車(広島一一う四六六九)に追突して、第一車線(走行車線)を塞ぐ形で横転した(以下「先行事故」という。)。

被告車両は第二車線を走行していたが、前方の第一車線を走行していた第三者の車両(以下「第三車両」という。)が、前方で横転している原告車両を発見して第二車線に車線を変更して被告車両の前に入ってきたことから、被告車両が第一車線に変更したところ、横転していた原告車両に衝突した。

2  原告会社は、原告三井海上との間に、原告車両について、平成九年二月二八日、同年四月一日から平成一〇年三月一日までの一一か月間を付保期間として、自動車保険契約を締結していた。原告三井海上は、原告車両の先行事故及び本件事故に伴う損害のうち修理費について、平成一〇年二月二〇日、保険金三〇〇万円を支払った。(甲三、甲八)

3  被告住友海上は、平成九年八月三一日、被告会社との間で、被告車両につき、次の内容の自動車対物賠償責任保険契約を締結した。

保険金額 対物五〇〇万円(免責一〇万円)

保険期間 平成九年九月二日から平成一〇年九月二日までの一年間

被保険者 被告会社

証券番号 四六四三六九一四〇三

従って、被告会社が原告らに賠償責任を負い、被告会社の原告らに対する賠償責任額が確定すれば、被告会社は、被告住友海上に対して、右保険契約の範囲で保険金請求権を取得する。(争いがない。)

ただし、被告住友海上は、既に、保険金として、被告会社の訴外日本道路公団に対する賠償金五万八九三〇円を支払っており、保険金残金は四九四万一〇七〇円である。(弁論の全趣旨)

4  被告会社は、本訴係属中に代表者が行方不明になり、事実上倒産状態に陥っており、右保険金請求権以外に見るべき資産を有していない。(証人濱口佐織、弁論の全趣旨)

三  争点

1  本件事故における被告会社の賠償責任の有無。責任がある場合の、過失相殺の当否・程度。

2  原告会社の損害。

四  争点1(被告車両運転者の過失の有無と過失相殺の当否・程度)に関する主張

1  原告ら

被告車両の運転者濱口には左車線前方に対する注視義務違反の過失がある。第一車線への変更は緊急避難ではない。

そもそも、前車が急に車線を変更したことからして、前方に障害物があることを予想して一層十分な安全確認が必要であった。

濱口は、第三車両が被告車両の前方に入ってきたため、ブレーキをかけ続けたが、追突しそうになり、車線を変更したというが、ブレーキをかけ続けていながら約二〇メートルあった車間距離が縮まって追突の危険を感じるほどになるとは考えられない。濱口はブレーキをかけ続けて衝突を避けようとしたのではなく、速度違反が原因で前車との距離が縮まり、安易に左へ車線変更したものと思われる。

仮にブレーキをかけ続けたにもかかわらず車間距離が縮まったのであれば、ブレーキをかける前にかなりの高速度で走行し、速度違反を犯していたことを示しており、衝突が不可避になる緊急避難とはいえない。

衝突時の速度が六、七〇キロメートルであったとの濱口の証言からすると、第一車線に変更後も前方注視義務を怠り、直前になってようやく原告車両の存在に気づいたものと思われる。

従って、濱口には過失があり、民法七〇九条により損害賠償責任があり、被告会社は民法七一五条により賠償責任がある。

なお、原告車両の横転後、運転手松下は、脱出するのにも時間を要しており、停止表示器材を設置する時間的余裕はなかった。

2  被告ら

第三車両は、横転車両を間近に見つけて後方の確認をせずに急に第二車線の被告車両の前方に進入した。突然前方に第三車両が割り込んだため、濱口は、急ブレーキをかけ続けたが、車間距離は次第に縮まり、追突が不可避となって、やむをえず第一車線に車線変更したところ、原告車両が横転しており、ブレーキが間に合わず、衝突した。

本件事故が発生したのは、冬季の早朝で、周囲は真っ暗であって、横転した原告車両にはその存在を認識させる点灯もなく、原告車両の運転者松下は、後続車両に横転車両の存在を知らせる措置を講じていなかった。

そもそも高速道路においては、走行車線上に障害物はないものとして走行しても注意義務違反はないものというべきであって、まして、先行車両が急に車線変更をしたからといって、前方の障害物のためであることまで予測して対処する義務はない。濱口にとって、真っ暗な高速道路上で、車線変更した車線を塞ぐ形で横転車両があるなどということは予測不可能であって、過失はない。

仮に濱口に過失があるとしても、原告車両の運転者松下には、そもそも原告車両を横転させて車線を塞ぎ、当該車線の車両の通行を妨害する事態を招いた点で責任がある。

五  争点2(原告会社の損害)について

1  原告ら

(一) 車両修理費用 金三〇〇万円

原告車両は、本件事故による後部の修理費用として三〇〇万円を要した。

(二) 現場復旧費用 金六万二三〇〇円

本件事故により原告車両の冷凍庫の扉が壊れ、手動では開けられなくなったので、神戸日野自動車株式会社に扉の開扉作業(パワーゲートの切り離し、リアドアロックプレートの取り外し)を依頼して、作業費六万二三〇〇円を支払った。

(三) 積み荷損害 金五四七万七二二二円

原告会社は、訴外株式会社ランテック(以下「ランテック」という。)から、精肉、生菓子等の生鮮食品の運送を請け負い、原告車両に搭載して走行していた。

先行事故のみであれば、原告車両は土手に乗り上げて横転しただけであって、扉の変形は小さく、パワーゲートとリアドアロックプレートを取り外さねばならないほど変形していなかったから、冷凍機が停止した原告車両から、積み荷を別の冷凍庫付きのトラックに積み替えれば足りた。

ところが、本件事故により、原告車両の冷凍庫の扉が壊れこれを開けることができなくなったため積み替え作業ができなくなったばかりか、荷台の床が本件事故によって押し込まれて、穴が開いて冷気が外に漏れ、外気が侵入したため、冷凍庫内の温度が急激に上昇し、午前一〇時に実際に積み替え作業をしたときには、冷凍食品の商品価値は完全に毀損されてしまっていた。

このため、原告会社は、荷主らに対して、損害賠償金計五四七万七二二二円を支払い、同額の損害を被った。

(四) 弁護士費用 金四五万円

被告が原告らの請求にもかかわらず任意に支払おうとしないため、原告らは本訴の提起をよぎなくされ、弁護士費用として、原告会社において四五万円を支払い、同額の損害を被った。

2  被告ら

(一) 本件事故による原告車両の後部の修理費が三〇〇万円であったことは認める。

(二) 現場復旧費用六万二三〇〇円が扉の開閉作業にかかる費用であることは認めるが、本件事故による損害であることは争う。先行事故により発生した損害である。本件事故が原因しているとしても、本件事故に原因する損害の割合は最大限五〇パーセントである。

(三) 積み荷の損害額は不知。その損害が本件事故によるとの点は否認する。仮に本件事故が原因したとしても、これによる損害の割合は最大限五〇パーセントに止まる。

扉の開閉が不可能となったのが、本件事故によるものであることは否認する。先行事故による原告車両の横転により不可能となったものである。荷台に穴が開いたとの点は否認する。その事実があるとしても、その原因が先行事故によるものか、本件事故によるものか、あるいはその両者によるものか、不明である。仮に穴があいたとしても、それにより庫内温度がどの程度上昇したか、明確ではなく、因果関係を否定する。

仮に積み荷に損害が発生しても、扉の開閉が不可能となったためではなく、先行事故により冷凍機は停止し、かつ車両横転による衝撃や当該事故による配送の遅れ等の影響により、既に積み荷の商品価値は毀損されており、先行事故による損害である。

また、個々の商品の損傷を見ても、箱破損、チルドパック破れ、中身割れ等、横転事故により箱等が破損したことにより商品が毀損したものであって、温度上昇による商品劣化があったとしても、そのことによる商品毀損は少ない。

さらに、原告は、仕事を受託したランテックから指示されて、損害評価が不十分のまま、荷主の要求どおり支払ったものであって、支払額をもって損害ということはできない。

(四) 弁護士費用については不知。

第四裁判所の判断

一  争点1(被告車両運転者の過失の有無と過失相殺の当否・程度)について

1  前提となる事実のほか、証拠(甲二の1、2、証人浅井繁、同濱口佐織)によると、以下のとおり認められる。

(一) 原告車両は、パワーリフト(荷物の積み卸し時に用いるリフト)付きの冷凍庫を載せた貨物車で、同車を運転していた松下は、原告会社の従業員ではなく、協力関係にある立脇運輸の運転手であるが、原告会社の運転手が急に辞めてしまったため、代役として、原告車両を三、四か月前から運転していたものであった。

原告車両は、先行するトレーラーに接触して、道路脇の法面を擦って進行車線に戻った際に横転したものであって、先行事故は専ら松下が運転を誤ったことに原因している。

(二) 事故現場は、自動車専用の高速道路(制限速度時速八〇キロメートル)である山陽自動車道で、付近は山を切り開いたところで人家も街灯もなく、一二月末の午前五時過ぎで、未だ真っ暗であった。道路はほぼ直線で見通しはよいが、原告車両、被告車両の進行方向(東進方向)に上り坂であった。

先行事故で横転した原告車両にはその存在を認識させる点灯はなく、原告車両の運転者松下も、後続車両に横転車両の存在を知らせる措置も講じていなかった。

(三) 松下は横転したあと、立脇運輸に自損事故で横転した旨を連絡した。

連絡を受けた原告会社は、運んでいた商品が冷凍食品であるためこれを他車に移すべく手配を始めたが、間もなく、追突された旨の連絡を受けた。

なお、車両のエンジンと冷凍機のエンジンは別々であるが、先行事故により冷凍機のエンジンも停止した。

(四) 濱口は、熊本に荷を運んだあと、二日ばかり荷物を待って、長崎からみかんを載せて愛知に帰る途中であった。

原告車両は一〇トン積みほどの箱型の先行車である第三車両に追随して第一車線を走っていたが、その速度を遅く感じたことから濱口はこれを追い越そうとして、第二車線に移り、時速一〇〇キロメートルほどに加速して第三車両に並びかけたとき、突然、第三車両がブレーキをかけつつ車線を変更して、二〇メートルほど前方に入ってきたため、急ブレーキをかけたが、追突を免れそうになく、第一車線に車線変更した。

するとその車線には四〇メートルほど先にこれを塞いで横転している原告車両があることが自車の前照灯で判り、急ブレーキをかけ続けたが、間に合わず、時速六〇~七〇キロメートルほどの速度で衝突した。

追い越しの際、被告車両の前照灯はロービームのままであった。

(五) 当時、現場の通行量は少なく、原告車両と被告車両が続いていたほかは、前後には、通行車両はなかった。

2  右事実に基づき考える。

高速道路であっても、進路上に常に障害物がないとは言えないから、車両運転者に前方を注視し、先行車らとの安全を保ちつつ進行すべき義務があることはいうまでもない。濱口は、第三車両を追い越すに当たって、その動向を注意し、その前方の安全を確認したうえで、すばやく追い越すべきであったところ、漫然と速度を上げて接近したうえで、先行車の前方を確認しないまま、これを追い抜こうとしたため、先行車の車線変更を予測できず、減速が遅れて、追突必死の状態に陥ったと判断できる。濱口に過失があることは否定できない。

もっとも、通常、高速道路においては、事故を除くほかは障害物がないのであって、暗闇の中で、上り坂の上に横転車両があることを遠くから発見するのは相当に困難である。原告車両は、松下の不注意により横転し、車線を塞いでいたのであり、本件事故についても、第一次的な原因は松下の過失にあるといえる。しかも、松下は、横転後後続車に対して注意を促す措置を取ることもなく、雇い主への連絡をしていたもののようであり、その過失は甚だ大きい。追突された立場とはいえ、本件事故の発生について、松下の過失割合は、六〇パーセントと見るのが相当である。

二  原告会社らの損害について

1  本件事故による原告車両の損傷

甲二の1、四、七、八、九ないし一三(原告車両の写真)、一七ないし二〇、証人浅井繁の証言によると、次のとおり認められる。

(一) 先行事故により、原告車両は、右側を下に向けて、前部を進行方向左前方に、後部を右後側にして、第一通行帯を完全に塞いで横転したもので、車体後下部が最も道路後方に位置していたところ、そこへ被告車両の前部正面やや左側が衝突した。

(二) 原告車両は、冷凍庫を備えており、後部背面が観音開きのドアであり、パワーゲートが取り付けてあった。パワーゲートは荷物の積卸しに使用するリフトで、荷台の後下部にアームを取り付けてあり、昇降する台板は、車両の走行中は、ドアを覆うように垂直に立ててある。両事故の結果、背面中央よりやや右側で、パワーゲートの取り付けアーム、昇降台板、冷凍庫の扉が前方に押し曲げられ、冷凍庫の床が前方に食い込むように四〇センチメートルほどV字型に折れ曲がって、穴が開いた。

(三) 原告会社が事故後間もない午前五時二五分に手配した大型レッカー車二台が午前一〇時ころ現場に到着し、原告車両の横転起こし作業をしたが、車体の損傷のためドアを開けることができないため、レッカー会社の担当者がいったん岡山まで走ってガス溶接機を取り寄せ、午前一〇時三〇分ころから、パワーゲートのアームをガス切断して切り離し、ドアハンドル(冷凍庫の背面に取り付けられた枠の穴に嵌まっている。)が曲がっていたため、ドア枠に取り付けたロックプレートをガスで切り離すなどして、ドアを開けた。右作業には約一時間を要した。

(四) 原告車両が単に横転しただけで、後部の床が凹むなどの損傷を生じたとは考えられないから、右のパワーゲートの昇降台板、取り付けアーム、冷凍庫の後扉が押し曲げられ、床に穴があくなどしたのは専ら本件事故の際に生じたということができ、パワーゲートのアームを切り離したり、ドアハンドルを切断したりする作業を要したのは、専ら本件事故が原因であったといえる。

(五) 冷凍庫の通常の設定温度は氷点下三〇度で、その冷気が荷物全体に及ぶように、高さは七割程度積むに止めるのが通常であるが、本件当時、どの程度荷物が積まれていたかは不明である。

通常、冷凍機が停止しても、開口部がなければ、積荷自体の冷気もあり、一時間に一度上昇する程度である。

もっとも、先行事故によっても、重量のある箱型の冷凍庫が横転したのであるから、冷凍庫全体に歪みが生じたことは容易に推測でき、目に見える穴があくなどの事象がなかったとしても、単なる冷凍機の停止の場合より速く、冷気を逃がし、温度上昇を招いたであろうことが推測される。

(六) なお、原告車両の商品を積み替えるための冷凍庫を備えた車両が現場に到着したのは、事故から約五時間後の午前一〇時前であった。

2  車両修理費用

本件事故による原告車両の後部損傷の修理費として三〇〇万円を要したことは当事者間に争いがない。

3  現場復旧費用

現場での復旧作業費として、原告会社はレッカー会社(神戸日野自動車株式会社)に合計四五万〇二三六円を支払ったが、このうちパワーゲート切り離し四万八〇〇〇円と、リヤードアーロックプレート取り外し一万四三〇〇円の合計六万二三〇〇円は本件事故に原因する作業と認められ、本件事故と相当因果関係がある。(甲四)

4  積み荷損害

証拠(甲五の1ないし10、六、証人浅井繁)及び弁論の全趣旨によると、次のとおり認められる。

(一) 原告会社は、ランテックが各荷主から請け負った、精肉、生菓子等の生鮮食品の運送を、再請負して運送中であった。これらの積荷は、先行事故及び本件事故により商品価値の殆どを失い、荷受人たる商店からは一部(甲五の3、6)を除いて引き取りを断られ、あるいは引き取られた商品も商品価値を失って廃棄処分したとして、賠償を求められ、原告会社はランテックに代わって、一〇軒の荷主に、契約上の損害賠償として合計五四七万七二二二円を支払った。

(二) もっとも、右賠償額は、ランテックがフレッシュ便と称して生鮮食品を中心に集荷していた関係でその運送契約に基づいて賠償したものであり、損害費目の中には、事故処理費用(甲五の1、5)や、売り場機会損失という損害二〇万円(甲五の6)などが含まれている。また、中には、温度上昇による損傷ではなく、横転自体の衝撃によって発生したと推定される損傷もある(甲五の2は「祝い生菓子」一五二万〇七九四円、甲五の4は「スイートポテトパイ」など一〇万一八五〇円であって、温度上昇もさることながら、荷崩れが原因するところが大きかったと見られる。甲五の6の合計七三万七〇七九円にも、生卵が割れていた、というものがあるほか、箱(段ボール箱)の破損や、チルドパック破れなどが挙げられている)。さらには、温度上昇には、横転により冷凍庫本体に生じたであろう歪みによる隙間も加功し、本件事故がなくとも、五時間後に積み替え用の車両が到着するまでにかなりの温度上昇を来していた可能性もある。

(三) してみると、原告会社が荷主に賠償した全てが本件事故に原因するものとは言えず、右賠償額の六五パーセントすなわち三五六万〇一九四円の限度で、本件事故によって生じた損害と認めるのが相当である。

5  過失相殺

以上によると、原告会社の本件事故による損害は、六六二万二四九四円となるところ、前記のとおり、本件事故の発生については原告車両の運転手松下に大きな過失があり、六割の過失相殺を行うべきであるから、これを相殺すると、原告会社が被告会社に賠償を求め得る損害額は二六四万八九九七円となる。

6  弁護士費用

原告らが本件訴訟の提起遂行を原告ら訴訟代理人たる弁護士に委任したことは当裁判所に顕著であるところ、以上に認定した損害賠償額やその他本件訴訟の経緯等の諸般の事情を考慮すると、弁護士費用として相当因果関係のある損害は三〇万円と認めるのが相当である。

四  結論

以上によると、原告会社が被告会社に賠償を求め得る損害は合計二九四万八九九七円となるところ、このうち、車両損害については原告三井海上が保険金三〇〇万円を支払済みであるから、同原告が保険代位により請求できる金額は原告会社に対する右支払額三〇〇万円から過失相殺分を控除した一二〇万円であり、原告会社が被告会社に請求できる金額はその他の一七四万八九九七円となる。

また、前提となる事実4からすれば、原告らは右賠償請求権に基づき、被告会社に代位して被告住友海上に対して保険金の請求ができるものというべきところ、右金額の請求は、同被告の保険金支払限度額以内であるから、すべて理由がある。

よって、原告らの本訴請求は右の限度で理由があるものとしてこれを認容し、その余は棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条、六四条本文、六五条一項を、仮執行の宣言について同法二五九条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 下司正明)

損害計算表

〈省略〉

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